仁淀川の水質の良さは日本一? それとも日本一「級」?
「仁淀ブルー」の美しさに惹かれ、キャンプで仁淀川ツアーを敢行すべく情報を集めていましたが、仁淀川については、「日本一美しい川」とか、「全国の水質ランキング1位」、「3年連続1位」といった言葉がどんどん出て来ます。でも本当に日本一なのか、日本一「級」なのか、とモヤモヤしたので、調べてみました。
目次
「水質日本一」、「水質ランキング1位」の真相
まず結論から言うと、仁淀川は、国土交通省発表の「水質が最も良好な河川」に選ばれた全国18河川のうちのひとつだった、ということが分かりました。単独の一位ではなく、「日本一タイ」、日本一「級」です。
また連続日本一の記録としては、2012~2016年の5年連続が、仁淀川の最高記録です。
しかし、国も優劣をつける術が無いから18河川を横並びで一位としているのであり、「仁淀川の水質は日本一」と言って間違いない、というのが、色々調べた上での、私の見解です。
また、国が水質を測っているのは、仁淀川の下流域ばかりです。仁淀川は、上流域の水晶淵に限らず、下流域でも全国屈指の水質を誇っている、ということも分かりました。
ではその内容を詳しく見て行きましょう。
国土交通省の「水質が最も良好な河川」
全国の河川の水質については、一級河川を対象に、国土交通省が毎年調査・発表※1 ※2 しています。その中で、全国で凡そ950ヵ所の決まった地点で、BOD(生物化学的酸素要求量)を計測しています。それを元に、対象の162河川のうち、一定の条件(後に詳述します)を満たす河川を「水質が最も良好な河川」※1 と定義して、毎年発表しています。
最新の令和2年(2020年)のデータ(令和3年7月1日発表)では、全国で18河川※3 が「水質が最も良好な河川」に選ばれました。この「水質が最も良好な河川」に入りましたよ、というのが真相のようです。
※1:国土交通省 令和2年全国一級河川の水質現況
※2:国土交通省 令和2年全国一級河川の水質現況 <参考資料>一級河川の全調査地点の水質
※3:川辺川、荒川(福島県)、尻別川、後志利別川、仁淀川、五ヶ瀬川、沙流川、宮川、安部川、小丸川、小鴨川、黒部川、熊野川、天神川、庄川、常願寺川、四万十川、狩野川
国土交通省の「水質が最も良好な河川」の決め方
令和3年発表の、令和2年(2020年)の仁淀川のデータを例にして、「水質が最も良好な河川」が決まるまでを順を追って説明します。
一級河川の全調査地点の水質を計測
全国の一級河川の凡そ950ヵ所で、毎年BODが計測されています。仁淀川では表1の5ヵ所です。
このとき、報告下限値を0.5mg/ℓとして集計しています。報告下限値を下回る地点は「<0.5」と表示しています。
調査地点 | 河口からの距離 ※4 | 「水質が最も良好な河川」 の集計対象 | BOD平均値 mg/ℓ | BOD 75%値 mg/ℓ | 備考 |
仁西 | 河口付近 | ○ | 0.5 | <0.5 | |
中島 | 5km | ○ | 0.5 | <0.5 | |
八田堰 | 10km | ○ | 0.5 | 0.5 | |
伊野 | 12km | ○ | 0.5 | 0.5 | |
大渡ダム | 69km | ダム貯水池 | |||
平均 | 0.5 | <0.5 |
※ 表1の値は、国土交通省 令和2年全国一級河川の水質現況 <参考資料>一級河川の全調査地点の水質 から仁淀川のデータを抜粋
※4:国土地理院の地理院地図で計測
対象河川と計測地点の絞り込み
次に、下記の条件で、河川を絞り込みます。
1.一級河川(本川): 直轄管理区間に調査地点が2以上ある河川
2.一級河川(支川): 直轄管理区間延長が概ね10km以上、かつ直轄管理区間に調査地点が2以上ある河川
加えて、下記の条件で、計測地点を絞り込みます。
3.湖沼類型指定、海域類型指定の調査地点及びダム貯水池は含まない。
条件1と2により、全国162河川に絞られます。
また条件3により、仁淀川の場合、ここで大渡ダムのみ対象から外れます。
平均値を求める
河川ごとに、対象の全調査地点について、BOD年間平均値と、BOD 75%値の平均とを求めます。
仁淀川の場合、仁西・中島・八田堰・伊野の4地点の平均を求めます。
「水質が最も良好な河川」が決定
ここまでで算出した二種類の平均値を使い、下記条件を満たす河川が「水質が最も良好な河川」に決まります。
・対象河川の各調査地点のBOD年間平均値について、全調査地点で平均をとった値が0.5mg/ℓ
・対象河川の各調査地点のBOD 75%値について、全調査地点で平均をとった値が0.5mg/ℓ
これにより、令和3年の発表(令和2年のデータ)では、全国で18河川が決まりました。
なお、個々の測定値を記録するときも、「水質が最も良好な河川」を選ぶ条件においても、環境省の『BODの報告は0.5mg/ℓを下限値とする』という基準を根拠として、0.5mg/ℓで区切っています。このため、もし0.5mg/ℓよりいい値(0.4mg/ℓや0.3mg/ℓ)があったとしても、実際に幾つだったかは分かりません。<0.5mg/ℓも、 0.5mg/ℓと横並びで扱われる、ということも言えます。
仁淀川の水質はやっぱり日本一
「水質が最も良好な河川」が18河川ある以上、単独の一位ではなく、「日本一タイ」です。しかしこれは、環境省の基準によって、0.5mg/ℓよりも良いBOD値は比較する術が無いので、国としても、この18河川の中での優劣をつけることができないのです。ですから、仁淀川の水質はやっぱり「日本一」と言っていいと思います。
因みに、仁淀川には何とBODが0.1mg/ℓ以下のところもある※5 そうです。ここまでの説明を見た後では、ものすごく良い数値だと分かりますね。
仁淀川の調査地点4ヵ所は、表1にあるように、すべて下流域(河口から0km、5km、10km、12km)にあります。NHKスペシャル「仁淀川~青の神秘~」で「仁淀ブルー」の撮影地にもなった水晶淵は、仁淀川の支流(安居川)上ではありますが、河口から76km※4 もあります。もし水晶淵でBODを測ったら、一体いくらになるのだろう? と興味が湧きます。
また、上流域の方が水がきれいなイメージがありますが、下流域でも全国屈指の水質(BOD 0.5mg/ℓ、またはそれ以上)を保っているのですから、下流域で水遊び、ラフティング、カヌーをしても、充分に透明度の高い水を堪能できる、ということも分かりますね。
※5:高知県 仁淀川清流保全推進協議会主催 第2回仁淀川シンポジウム 実施報告書
過去の「水質が最も良好な河川」
続いて過去に「水質が最も良好な河川」になった回数を見ていくと、仁淀川は直近の10年(2011~2020年)では9回もなっており、全国でもトップクラスです。下の表は、直近10年の回数で全国の河川を並べてみたものです。ただ繰り返しになってしまいますが、これはあくまで回数に過ぎず、どの河川の水質がより良好なのか?は分かりません。
※表2は、国土交通省 全国一級河川の水質現況の平成14年~令和3年版を元に作成しました。
「直近10年」、「直近20年」と「選ばれた河川の数」は独自に集計したものです。
意外だったのは、仁淀川が2010年に初めて「水質が最も良好な河川」になっていたことです(1999年以前の国土交通省の発表は確認していません)。流域の産業廃水の規制や、家庭排水の浄化といった取り組みが功を奏している ※5 とのことなので、今もどんどん水質が良くなっているのかもしれませんね。
一方、全国に目をやると、「水質が最も良好な河川」の数が年々増えて来ていることが分かります(表2の「選ばれた河川の数」参照)。しかも、わずか20年前の2001年には、何と1河川しかなかったことは驚きです。
身近なところでは、多摩川の水が随分綺麗になったと感じつつも、「そりゃ、光化学スモッグ警報が毎日のように出てた頃よりはきれいになってるよね」くらいにしか思っていなかったのですが、ここ10年、20年でも全国的に水質の改善が見られているのだとしたら、とても嬉しいことだと感じます。
(2021年8月更新)
表2の上位9つの河川は、仁淀川も含めすべてが、2021年7月の発表(2020年のデータ)でも「水質が最も良好な河川」に選ばれました。また、選ばれた河川の数は全国で18河川で、2016年に並んで過去最多タイとなりました。今後更に増えてくれるといいですね。